少し前の論文ですが、デンマークから。
Journal of Biomechanics(2002)に掲載されていた研究内容から介護の動作における腰部負担の比較調査のレポートがありました。
今回は、このレポートから介護場面でのアシストスーツの適応について考えてみたいと思います。
~レポートの要旨~
病院や介護施設で、患者さんや入居者さんの介助をする際の動作10パターンを行い、腰部への負担を比較した研究です。
※介助した対象は、50代の脳卒中後の男性。体格は身長175cm、体重88kg
左半身は麻痺がある。右半身は力が入るようで、全介助の患者さんではないと。
※計測方法は、三次元動作解析装置と床反力計を用いて計測、三次元ダイナミックモデルを用いて腰部負担を算出しています。
→原文はこちからご覧いただけます。
〇腰部負担を比較する介助動作は次の通りです。
(画像引用:http://www.cs.cmu.edu/~cga/transfer-papers/skotte.pdf?fbclid=IwAR36ZIv6IZX0bq3K8b0Q-KIE-RpMl1T94Ggk1sFGfQuPPVEySmvCcWTRkD4)
圧縮ストレスが高かったのは、5と8 でした。
5.座っている患者を立つまで介助する(立ち上がりの介助)
8.車椅子に深く座らせる(座り直し介助)
それぞれ4132Nと4433Nと全パターンの中でダントツに高い圧縮ストレスとなっています。
他にも圧縮ストレスが高めであった介助動作は、
2.ベッドの真ん中に寝ている患者を介助者の方へ引き寄せる:3179N
4.寝ている患者をベッドの端に座らせる(起き上り介助する):3091N
6.座っている患者をベッドに寝かせる:2932N
9.仰向けの患者をベッドの頭側に位置修正する(位置修正の介助):3094N
全体をまとめてみると、
という感じです。
さてここから、腰部圧縮トルクが高かった、すなわち腰への負担が大きかった介助方法について考えてみましょう。
5の立ち上がりの介助については、
腰への負担が大きいのは計測するまでもなく、という感じですが。
実際に病院や介護施設では介助が必要な人に最低数回は行っているのではないでしょうか。
車椅子などに移乗したり、排泄の介助があったりと。
腕力に頼ることのできる男性であれば腰への負担も減らすことはできるのでしょうが、あまり腕力のない男性や女性の介護者の場合は腰への負担は相当蓄積してくると考えられます。
この時の介助方法も患者さんに合わせてそれぞれの工夫をされていることと思います。
そして恐らくは、膝を少し曲げて患者さんを斜め前方へ重心移動をする形で立ち上がり介助を行うことでしょう。
間違っても、膝を伸ばしたままのStoop法のようなやり方で介助する人は恐らくほとんどいないと思います。
→Stoop法、Squat法については別コラムにて説明していますのでご覧ください。
コラム「アシストスーツの効果検証と腰痛予防について」
ここで残念なのは、7の移乗介助の数値が計測されていなかったことです。
また8の座り直し介助については
後方から身体を引き上げる方法であったり、二人で介助したり。
どうしても一人でしか介助できない場合は、介助者の膝と患者さんの膝を合わせるかたちで、押し込んであげるやり方もあります。こちらも体格によって適否がありますので、工夫はさまざまです。
したがって、実際の介護場面では、この座り直しの介助については腰への負担がかからないように工夫をされていると思います。
そして、注意しておきたいのは、1.2.4.9です。



これらの介助動作は腰への負担は最大ではありませんでしたが、共通点があります。
それは身体を前傾した状態で腕を使う介助の種類であるということです。
身体を前傾するということは、背中の筋肉が伸ばされた状態でその姿勢をキープする必要があり、さらに両腕に力をいれて介助を行う動きであるということです。
身体の前傾をキープした姿勢が腰に負担がかかるというのは、みなさんも経験的にご存じかとは思います。
腰への負担、すなわち腰背部筋や腰部椎間板に負担がかかる作業姿勢となるのです。

(画像:産業理学療法研究会資料より)
一撃腰痛!!とまではいかなくても、筋疲労や椎間板への負担はじわりじわりと蓄積しています。

(画像:産業理学療法研究会資料より)

(画像:産業理学療法研究会資料より)
この前傾姿勢のサポートがあると腰への持続的な負担を減らすことにつながります。
〇介護場面でアシストスーツの効果を発揮させるには、
・立ち上がりや移乗場面での腰を起こす動きをサポートする
・前傾姿勢のキープが楽になるようにサポートする
の2点が適応といえます。
〇介護でのアシストスーツ選びのポイントとしては、
・重すぎない
・シンプルな作り
・中腰サポート機能搭載
が必要な要素でしょう。
着脱に要する時間など、効率化の観点から判断すると介護現場でのアシストスーツの活用は一筋縄ではいかないようです。
しかし、腰への負担を軽減し安全で快適な介護環境を整えていくには、アシストスーツの導入も十分に検討すべきであると思います。
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作成者:逢坂大輔(理学療法士・作業管理士)