作業現場における腰痛リスクを低減するためには、適切な作業負荷評価が不可欠です。
本記事では、代表的な4つの評価方法「OWAS法」「NIOSH Lifting Equation」「REBA法」「MAPO法」について取り上げ、それぞれの特徴や適用場面を紹介していきます。
これらの手法を活用することで、作業者の負担を軽減し、安全で効率的な作業環境を構築することが可能です。
腰痛対策の第一歩として、作業姿勢や動作を見直し、科学的な評価手法を取り入れましょう。
現場でのリスクを可視化し、適切な対策を講じることで、労働災害の予防や生産性の向上にもつながります。
1. OWAS
概要
OWAS(Ovako Working Posture Analysis System)法は、作業者の姿勢を背中・腕・脚・持ち上げる重量の4つの要素に分類し、それぞれの負荷レベルをAC(アクションカテゴリ)1~4の段階で評価する手法です。
主観的な要素が少なく、現地観察を通じて簡単に適用可能なのが特徴です。
前屈、中腰、持ち上げ動作など。体の特定の姿勢に着目しており、作業場全体のリスク傾向を把握するのに適しています。
特徴
- 姿勢を4つの要素(背中、腕、脚、持ち上げる重量)に分類。
- 各要素をコード化し、アクションカテゴリ(AC)1~4で評価
- AC1:負担が少なく、改善の必要なし。
- AC4:非常に有害で、即改善が必要。
- 主観的な要素が少なく、現場観察を通じて簡単に適用可能。
【アクションカテゴリ評価用シート】

適用シーン
- 繰り返しの姿勢や長時間にわたる作業を含む現場(例:工場、倉庫、介護施設)。
- 職場全体のリスクを俯瞰的に把握したい場合。
使い方のイメージ
OWAS法を使って「AC3」以上に該当するリスク姿勢を特定し、該当作業にアシストスーツを導入することで、リスクの低減効果を検証できます。
2. NIOSH Lifting Equation (NLE)
概要
NIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health)Lifting Equationは、持ち上げ作業における腰部の負担を定量的に評価する国際的に広く採用されている手法です。
特に、L5/S1(腰椎の最下部)にかかる負担を数値化し、作業の安全性を評価します。
作業環境の要素(荷物の重量・持ち上げ高さ・頻度・体との距離)を考慮し、推奨重量限界(RWL)と持ち上げ指数(LI)を算出します。
特徴
- 重量物の持ち上げ、餅下げ、運搬作業の腰痛リスクを判定できる。
- 作業環境の要素(荷物の重量、持ち上げ高さ、荷物と体の距離、頻度など)を考慮して評価します。
- 推奨重量限界(RWL:Recommended Weight Limit)を算出し、それをベースに作業の安全性を評価します。
- 持ち上げ指数(LI:Lifting Index)を使ってリスクを判定。
- LI < 1 : 安全。
- LI > 1 :改善が必要。
- LI>3:高リスクで早急な対策が必要
【作業環境要素のイメージイラスト】

画像引用:(https://2lift.com/safe-lifting/)
適用シーン
- 重量物を頻繁に扱う物流業や工場などの作業環境。
- 腰痛リスクを数値で明確化し、安全基準を設定したい場合。
使い方のイメージ
「この作業では、20kgの荷物を胸の高さまで持ち上げる際に、L5/S1に300kgf以上の負担がかかるため、作業改善が必要です。」と具体的に提案することが可能です。作業負担が可視化でき、より具体的な作業改善の提案が可能になります。
3. REBA
概要
REBA(Rapid Entire Body Assessment)法は、作業姿勢や動作を細かく評価し、リスクを数値化する方法です。
OWAS法がシンプルな分類であるのに対し、REBA法は首・背中・腕・脚などの身体の各部位に焦点を当て、1~15のスコアリスクを判定します。
特徴
- 首、背中、腕、脚など、体の各部位に分けてリスクを数値化。
- 1〜15のスコアでリスクを判定。
- 1〜3 :負担は少なく、改善の必要なし。
- 4~7 :中程度のリスク、対策を検討。
- 8~10:高リスク、対策が推奨される。
- 11〜15:: 非常に高いリスクで、早急に改善が必要。
- 体全体を多角的に評価することで、複雑な動作の影響を把握。
【多角的評価のイメージイラスト】

画像引用:(http://ergo-plus.com/wp-content/uploads/REBA-A-Step-by-Step-Guide.pdf)
適用シーン
- 複雑な動作や、全体に負担がかかる作業のリスク評価。
- 工場ライン作業、介護現場、作業が多い職場など。
- 動作の複雑性が高く、OWAS法やNIOSH法ではカバーしきれない場合。
REVA法は、ひねりやねじりを伴う複雑な作業のリスク評価に適しています。
例えば、中腰で物を持ち上げる動作や、反復動作が多い作業に対する詳細な分析が可能です。
使い方のイメージ
「中腰でひねりながら物を持ち上げる作業は、REBAスコアが11以上となり、早急な改善が必要です。」といった具体的なリスクを現場に伝える。
4. MAPO
概要
MAPO(Movement and Assistance of Patients in the Organization)法は、医療介護従事者の腰痛リスクを評価するために開発された手法です。患者の移動や持ち上げ作業に伴う負担を「MAPOスコア」で数値化し、リスクレベルを明確にします。
- MAPOスコアという指標を算出し、患者の移動や持ち上げ動作による負担を数値化します。
- 腰痛の発生リスクを事前に特定し、リスク軽減のための改善策(福祉機器の導入や作業手順の見直しなど)を提案する基準として用いられます。
特徴
(1)対象が患者移動に特化
- 患者の移動・介助作業に特化しているため、介護現場や医療現場に最適。
- 持ち上げ動作だけでなく、車いすへの移乗、ベッド上の体位変換、移動補助など幅広い作業を対象とします。
(2)スコアによるリスク評価
- MAPO法では、以下の要因を考慮してMAPOスコアを計算します
- 患者の重量や介助頻度
- 助手や介助器具の使用状況
- 環境(床面の状態や移動距離など)
- MAPOスコアが高いほど、労働者にかかる腰痛リスクが高いと判断されます。
(3)改善策の提案がしやすい
- MAPOスコアを基に、「リスクが高い作業」や「改善が必要な作業」を特定。
- スコアを下げるための具体的な改善策(例:リフトの導入、介助器具の使用徹底、作業人数の増加など)を提案できます。
- MAPOスコアの評価基準
- < 1.5 :リスク低(許容範囲)
- 1.5~5.0:リスク中(改善が望ましい)
- > 5.0 :リスク高(早急な対策が必要)
使い方のイメージ
(1)医療現場での適用
- 患者の移動が多い病院やリハビリ施設で、作業者の身体的負担を評価するのに適しています。
- ベッドから車いすへの移乗や、患者の持ち上げ動作に伴う負担を評価。
(2)介護施設での適用
- 介護職員が日常的に行う体位変換や入浴介助、移動介助の負担を評価。
- 高齢者介護施設での腰痛予防対策の一環として使用。
(3)福祉機器導入の効果判定
- リフトやスライディングシートなどの福祉機器を導入することで、MAPOスコアがどの程度改善されるかを測定。
- 導入後の効果を定量的に示すことで、職場改善の具体的な効果を評価可能。
MAPO法のメリット
- リスクの見える化
- 患者移動に特化したリスク評価が可能であり、現場のリスクを「数値」で分かりやすく示せます。
- 具体的な改善指針を提供
- MAPOスコアを下げるために、適切な作業手順や福祉機器の導入計画を立てることができます。
- 腰痛予防策の効果測定に活用
- 改善策の効果をスコアで示すことで、職場の納得感を高め導入後のフォローアップも容易です。
MAPO法の注意点
- 初期評価には時間がかかる
- MAPOスコアを計算する際、多くの労力を考慮する必要があるため、初期導入時にはやや時間がかかる場合があります。
- MAPOスコアを計算する際、多くの労力を考慮する必要があるため、初期導入時にはやや時間がかかる場合があります。
- 福祉機器の導入が前提
- 高リスクの作業を改善するには、リフトや移動補助器具などの福祉機器の活用が必要です。
5.4つの方法の違いと使い分け
評価方法 | 主な目的 | 評価対象 | リスク表現 | 適用例 |
OWAS | 作業姿勢のリスク評価 | 姿勢全般 | AC1~4 | 長時間の前屈や中腰作業のリスク把握 |
NIOSH | 持ち上げ作業の腰部負担の定量評価 | 荷物の重量・作業姿勢 | 推奨重量限界、持ち上げ指数(RWL、LI) | 持ち上げや運搬作業の具体的リスク評価 |
REBA | 全身の動作リスクの詳細な評価 | カラダ全体の姿勢・動き | スコア(1~15) | ひねりやねじりを伴う複雑な作業の評価 |
MAPO | 患者の移動・介助作業 | 患者重量、介助頻度、介助者の数など | MAPOスコア | 医療・介護現場の腰痛リスク評価 |
5.まとめ
作業負担の評価には複数の手法があり、それぞれ異なる特性を持っています。
- OWAS法は姿勢評価をシンプルに行いたいときに便利です。
- NIOSH法は持ち上げ、持ち下げ、運搬作業に特化し、負担を科学的に数値化できる。
- REBA法は全体の複雑な動作を詳細に評価したい場合に最適。
- MAPO法は医療介護の場面に特化した評価方法。
作業環境に適した評価手法を選択し、リスクを可視化することで、腰痛の予防や労働環境の改善につなげましょう。
腰痛リスクや作業負担の計測・評価についてのご相談は、ぜひお気軽にお問合せください。
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